なんともいえない豊かな気持ちになった

2月19日(土)
 せっかく来た東京。何か観光をしたいとずっと考えていた。昨夜もマップルなどを見て、いろいろと計画を練った。上野に行ってまず、国立西洋美術館、次に秋葉原、神保町の古本屋街、神田のスポーツ用品店街、六本木ヒルズなどなど。
 時間が限られているので、朝早く起き、すぐに活動を開始した。外に出てみると、なんと東京は雪。上野の公園の芝生には白く雪が積もっていた。西洋美術館に行こうと思っていたら、開館は9時30分まだ、30分以上もある。そこで、開館までの時間つぶしのために、上野の公園を歩いてみた。すると、国立博物館が見えてきた。そこでは特別展をやっていた。『金堂平成大修理記念 唐招提寺展 国宝 鑑真和上像と盧舎那仏』というものだった。唐招提寺というと、昨年の夏に自転車で奈良を走ったとき、よろうとしたのだが、修理中だったのでやめたところだ。ここも開館は9時30分だったのだが、気がついたらチケット売り場にならんでいた。20分近く待って1400円でチケットを購入し、中へ入る。中に入ると、音声ガイドをかりる列に並んだ。今までに、音声ガイドなど借りたことがないのに、不思議な気がしたが、今日はなぜだか音声ガイドが聞きたくなったのだ。
 そのガイドを聞きながら展示物を見た。そのガイドは寺尾聰だった。この前DVDで「半落ち」を見ていたので、親近感を覚えた。本来ならば、こんなに近くでは見れないだろう展示物の数々。大修理のおかげだ。四天王なども目と鼻の先ほどの近さでじっくり見ることができた。また、ガイドによって、作り方や特徴などよく分かった。
 この四天王は、六日市小時代に子どもたちに版画の勉強をするときに使ったことがある。写真集、特に顔のアップの写真を見せ光と影を意識させたのだ。実際に彫って作品にもした思い出の四天王像である。本物の四天王は時代を感じさせる重みや迫力があった。
 四天王や盧舎那仏坐像が展示してある部屋を出て次の展示室に行くと、どこかで見たような絵が・・。そう、東山魁夷の海の絵『濤声(とうせい)』(美術商HP)だ。益田市の戸田小浜をモデルにしたというあの絵だ。音声解説や展示の解説にも確かに島根県の戸田小浜のスケッチをもとに描いたものと紹介されていた。ガイドによると、東山魁夷はこの障壁画を描くために、青森から山口まで日本海をスケッチして旅をしたそうで、その中でも、戸田小浜スケッチと山口の青海島のスケッチとがここの障壁画に採用されているということだった。皇居新宮殿壁画として描いた朝明けの潮」(宮内庁HP)も戸田小浜をヒントにしているということで、東山魁夷のお気に入りの浜なのだ。
 東京で、その本物の絵と出合うことができるなんて、思いもしなかったため、感激してしまった。唐招提寺でも
年に三日間、開山忌の間にしかこの障壁画は見ることができないものなのだそうで、この絵をこんなに近く見れることの幸せを感じた。また、近くで見て、その見事さ、その優雅さに圧倒されてしまった。その横には、岐阜の山をスケッチしたものをもとに描いた『山雲(さんうん)』もあり、日本の風景の代表として、山と海の美しさを東山魁夷は描いたのだ。この山雲も見事で、思わずそこに立ちつくすほどだった。地元島根の戸田小浜ということもあったのかもしれないが、絵を見てこれほど感激したのは生まれて初めての経験だった。今日は、この絵と出合うためにあったと言ってもいいくらい時のたつのも忘れて何度もこの障壁画のあたりを行ったりきたりして見ていた。
 東山魁夷は、鑑真和上のために中国と日本の風景を障壁画に描こうとして、そのために、中国にも行き、そして、日本中を旅して日本の風景を探したということで、絵を描くまでの努力、絵への情熱などを感じたという意味で私にとって今日は本当に貴重な経験をした。
 東山魁夷の心をとらえた戸田小浜であるが、そのことをどれだけ地元の人は知っているのだろうか?と残念に思う。戸田漁港がある浜だと思うが、数年前に漁港側が大規模な工事でコンクリートで埋まってしまっている。せめて、今も残っている砂浜あたりは保存してほしいと思うし、していくよう努力していかなくてはならないと感じた。とにかく、もっと東山魁夷
が障壁画にした箇所ということを多くの人に知ってほしい、そうすることが保存への第1歩ではないかと思う。このホームページだけでなく、私もことあるごとにそのことを話していきたいと思った。
 
 あまりに、障壁画の感動が大きかったことで、常設の展示物の中にもすばらしいものはたくさんあったはずなのであるが、ほとんど目に入らなかった。また、他にも行く予定にしていた場所も行くのをやめ、今日はこの感激を大切にしようと思った。
 ということで、少し早めに羽田空港に行き、帰りの飛行機を待った。羽田空港は新しくなっていた。行きは13時間かかって来た益田〜東京間だったが、飛行機だと2時間。本当に早い。

My tracks 2005